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弥生時代の上流階級の服装

小春日和の真っ青な空のもと、ワゴンセールの色あせた文庫本を丁寧に並べながらもう50円引こうかと思案するのはこの屋の店主。正木明人先生は元小学校の教師で今は古本屋を営んでいます。

気まぐれな父親より無理やりおしつけられたこの仕事もどうにか慣れてきた今日この頃。北風にかじかむ手をこすり合わせ慌てて中へ入ると同時に明治以来の木枠にガラスを貼った扉がゆっくりと閉じていきます。

と、途端にそれは乱暴に開けられ一人の少年が入ってきました。以前の教え子で現在地元の中学に通うたかや君です。

たかや君「先生、こんにちは!」

明人先生「やあ、こんにちは、たかや君。今日も来たね」

たかや君「先生に聞きたいことがあって」

    「今日学校で高松塚古墳のスライドを観たんですけど、その中に身分の高い婦人たちを描いた壁画がありました」

    「長いスカートのようなものをはいていました」

    「それと邪馬台国の卑弥呼の絵も見たんですけど、こちらは色々あるみたいですね。明治以降に画かれたもののようでした」

    「随分違うなって、違和感というか。庶民の人たちは横幅の布を巻き付けたり貫頭衣として着ていたでしょう」

    「女性はワンピースかツーピース。巻きスカートみたいなものをはいていたんですよね」

    「染められていない単色で。でも婦人像や卑弥呼の衣装はとても鮮やかでなんだかやわらそうな布できれいでした」

    「形は同じような感じだけど全体としてはまるで違う。庶民と身分の高い人とのあまりの違いにびっくりです」

明人先生「高松塚古墳は7世紀末から8世紀初め、平城京遷都の直前の時期の古墳だね」

    「中国東北部から朝鮮半島北部のツングース系民族の国家で高句麗(BC37~AD668)というのがあるけどその時代の壁画の衣装と似ているそうだよ」

    「卑弥呼はだいたい3世紀初めの人だから婦人たちよりもっと前になる」

たかや君「先生、弥生時代の身分の高い人たちの服装はどのようなものったのでしょうね。卑弥呼が着ているようなものを想像すればいいんですか?」

明人先生「卑弥呼は女王(最高司祭者)だからね、特別なような気もするけど」
     
    「『吉野ケ里遺跡』発見以前の絵であれば衣装はきっと古墳時代の埴輪や当時の中国や朝鮮半島のものを参考にしているのだろう」

    「高松塚の貴婦人たちの衣装をモデルに書かれた絵もあるかもしれない」

    「今では時代的に最も近い『吉野ケ里遺跡』という考古学的史料があるからもっと正確な服装を推測できると思うよ」

たかや君「先生、男性についても『吉野ケ里遺跡』から推測できますか?僕としては上流階級の人たちがどういう服を着ていたかが知りたんですけど」

明人先生「わかった。それでは今回は身分の高い人たちの服装について考えてみよう」


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明人先生「身分制が誕生して作業も専門化してくるとそれに見合った服装になるよね。それぞれについて“これ”というのは難しい」

    「というのも服そのものは遺物としてまだ発見されていないので、スタイルとしては憶測しかできない」

たかや君「普通の人々の服装は『魏志倭人伝』に記載されていましたが卑弥呼とか身分の高い人のものについてはないんですね」

明人先生「そうなんだ。まあ卑弥呼については接触していたのがただ一人、弟と考えられている者だけのようだから、本当に謎なんだよ」

    「でもその手掛かりとなるのがあの“みずら”が出土した『吉野ケ里遺跡』だ」

    「『吉野ケ里遺跡』では大麻布と絹布が確認されている。大麻布は二つの甕棺から出土したそうだ。」

    「大麻を材料としていて密度の高いしっかりした織り方で高い技術力を示しているといわれているよ」

    「それと絹布。こちらも中期前半、後期初期のそれぞれの甕棺から出ている」

    「2つの時機のどちらも“家蚕”といって家畜化された蚕、屋内で飼育された蚕から作られた絹であるということだ」

    「『魏志倭人伝』には“稲や貯麻を植え、桑で蚕を飼って紡績をおこない、麻糸・きぬ・綿を作っている”という記述があるけどそれが立証されたことになるね」  

    「吉野ケ里で発見されたものは中国漢代のものと比較してその違いからちゃんと日本製のものと確認されている」

    「作り出すだけのそれに見合った織り機もあったと推定されるよ」

たかや君「当時の人たちってすごいですねえ」

明人先生「それも実は“透目絹”といってね、他の遺跡では見られないような絹布なんだそうだ」

たかや君「“透目絹”というのは?」

明人先生「非常に繊細な織物で肌が空けるような薄手の絹織物のことをいう」

    「吉野ケ里ではこの“透目絹”でも織りの粗いものと繊細なものとが出土している」

たかや君「種類があったんですね」

明人先生「そうだね。ごくごく限られた人たちにのみ着ることができたそうで女性に特に好まれたが男性も着ていたらしい」

    「この“透目絹”は中国の華中に多い織物で日本では、弥生時代では吉野ケ里と福岡の『栗山遺跡』、古墳時代では島根県や千葉県の横穴群で出土している」

たかや君「ということは、すごく限定的ということですね」

明人先生「そう、専門家によるとそれらの地域と華中との交流を示すもので、出土したものも大陸華中からの渡来人かその子孫によるものだろうということだ」

たかや君「ええ~、ちょっと残念。僕はまたすぐに日本人が真似て織るようになったのかと思った」

明人先生「日本人はそういうの得意だからね、鉄砲だってすぐに生産したし。この場合は違うみたいだよ、それほど珍しく高度な技術が必要だったということだね」

    「でも『源氏物語』の中にこの“透目絹”のことではないかと思われる衣服の記述があるから、それまでには日本人の手による織物となっていたと思う」

明人先生「それにね、その“透目絹”だけど染色をされていたことが分かったんだ。分析によると貝紫と日本茜で紫色と赤に染色していたということだ」

たかや君「僕がスライドで見た衣装もその赤色を表現したんですね」

明人先生「そういうことになるね。貝の分泌液を化学反応させて染めた紫色もとても高価なものでそれがこの時代の極東で発見されたことは大変なことなんだ」

たかや君「へえ~、そうなんですか。紫色もきれいですね」

明人先生「英語では“王者の紫”と言ってね、あのカエサルのマントやクレオパトラの旗艦の色がこの紫色だったということだよ」

たかや君「それが弥生時代の北部九州で見つかるなんてすごい!」

明人先生「その他『吉野ケ里遺跡』からは縫い糸が残っている絹の布が出てきて、糸の方向から身頃には“袖”があったことが確認されている」

たかや君「普通の人々の服には“袖”は無かったですよね」

明人先生「身分の高い人々は当時高価な布もたっぷり使って袖の有るゆったりとした服装に身を包んでいたのではないかな」

たかや君「ああ~、やっぱり身分制ってつらい!普通の人々は、男の人も女の人も足が脛あたりから見えていたように感じましたが?」

明人先生「上流の人たちは脛は覆っていただろうね」

たかや君「全体としてのスタイルはどうですか?」

明人先生「史料としては土器や銅鐸に画かれた絵や埴輪、同時代の中国の服装から推測する」

    「研究者によって創案されたものを見ると、男女それほどの違いはなく、織物は“透目絹”のごく軽いしなやかなもの」

    「袖付きで赤などに染色が施された上衣にたっぷりとした長いスカートのツーピースがそのスタイルだ」

    「腰は紐ではなく文様の有る細い帯を締めていたと考えられているよ」

    「そして祭りなど“ハレの日”には目の細かい“透目絹”を着て、など、“ハレ”と日常を区別していた」

    「服飾品も多数出土している。ヒスイやガラス玉でできた首飾り、南海産の貝でできた腕輪、かんざしや櫛などの髪飾りなど」

たかや君「女の人たちですね」

明人先生「いや、男性も櫛をさしていたという可能性もあるそうだ。それに身分を誇示するものとして剣も身につけていたのではないかと言われている」

    「まだあるよ」

    「吉野ケ里をはじめ北部九州の遺跡からは木製の履物が出土しているけどその他に革でできた“沓”も履いていたのでは、ということだ」

たかや君「革のくつ~!普通の人々は裸足でした」

    「身分の高い人たちの服装は華やかで豪華で、ますます普通の人々との差を感じちゃうなあ」

明人先生「まあ、それが弥生時代であり“ムラ”から“クニ”への移行の所産なのだろうね」

たかや君「先生、そういった衣装って実際に見ることはできますか?」

明人先生「うう~ん、やっぱり『吉野ケ里遺跡 歴史公園』になるかな。高松塚古墳の壁画の方は今では実際には見られないし」

「そうだ、出来上がったものではなくそれを作り上げた織機はどうかな」

    「縄文時代のアンギンから弥生時代の原始機(げんしばた)や後の時代の織機も、時代を追ってみることができるよ」

たかや君「それもいいですね。どこに行けばいいんですか?」

明人先生「愛知県の『一宮市博物館』だ」

    「アクセスは、名鉄名古屋本線に乗って「妙興寺」駅下車 徒歩7分」

    「ちょっとわかりにくいところにあるけど、長島山妙興報恩禅寺に隣接しているからお寺を目安にしていくといいかもしれない」

    「それと必ずHPを前もって見ておくこと」

たかや君「はい、了解です!」


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